オンライン英会話ビズメイツ
選ぶ・試す・続ける。ユーザーの段階に合わせて、サービスの伝え方を組み直す。
サービスラインナップの拡張により、ユーザーが「自分にどれが適しているか」を判断しにくい状況にありました。着手前に流入経路ごとの登録率を業界平均と突き合わせ、認知ではなく期待とのズレが要因だと切り分けています。商品名で並列に並べるのではなく、習熟段階を軸にポートフォリオを組み直し、三つのサービスを貫く最上位概念を言語化。サイトとLPを役割で分離し、構成と言葉までを設計しています。
Client
ビズメイツ株式会社
期間:
2025年5月 – 7月(週1日稼働)/ サイト公開:2025年10月担当:
現状分析 / 競合調査 / バリュープロポジションの再定義 / 情報設計 / 構成設計 / コピーライティング / デザイン要件の策定体制:
デザイン実制作・実装はクライアント社内チームが担当
※ 成果物の特性上、掲載する画像には一部マスク処理を施しています。
Point 1 ── 認知の問題ではない、と切り分ける
初期のご依頼は、サイトトップの改修でした。
施策の量は充実していました。広告、UGC、サポート、講師。接点は多層的に存在し、それぞれに手が入っています。この状態で「もっと知ってもらう」方向へ進むのが、自然な流れでした。
その前に、流入経路ごとの登録率を業界平均と突き合わせています。eラーニング全体の平均は約3.65%。この基準に対して、経路ごとにどう分布しているかを確認しました。
出てきたのは、逆転でした。
サービス名で検索して来た人の登録率が、平均を下回っている。一方で、広告や比較検討から来た人は平均を上回る。名前を知って訪れた人のほうが、登録しないまま離れていました。
認知が不足しているなら、名前を知っている人の登録率が最も高いはずです。そうなっていない。課題は知られていないことではなく、**知っているつもりで来た人の期待と、サイトが渡すものがズレていること**でした。
認知施策を増やす方向は採らない。伝え方の構造そのものを組み直す。ここがこのプロジェクトの出発点になりました。
切り分けたうえで、要因を内部と外部に分けて整理しています。
内部の要因は、価格改定後の納得感、ファーストビューでの期待値、情報量に対する決め手の弱さ、サービス拡張による選択の迷い。外部の要因は、AI英会話の普及によって「まず試す」が一般化したこと、オンライン英会話そのものが当たり前になり、特別感が薄れたこと。
外部要因は、印象で語らずに確認しています。競合21サービスを集め、訴求の方向性・対応する学習フロー・訴求カテゴリ・想定ペルソナの4軸で分類しました。そのうえで、学習者を5つの層に分け、それぞれに刺さる訴求タイプを整理しています。何から始めればいいかわからない初級者、壁にぶつかった中級者、会議や商談で話せるようになりたい層、自分のやり方に限界を感じている上級独学層、短期で変化が欲しい成果重視層。
分類して見えたのは、機能訴求に集中している市場の状態でした。
見えてきたのは、これらが単独ではなく複合的に絡み合っているということでした。ひとつの施策で解ける構造ではありません。
どこに手を入れるかを決めるには、全体像が要る。そう判断し、可視化から着手しました。可視化そのものが目的ではありません。ステークホルダーが同じ全体像を共有し、議論が成立する土台をつくることが目的です。
整理した範囲は、次の5点です。
サービス構造と関係者マップ
── 誰が・どこを見て・何に取り組んでいるかを俯瞰するカスタマージャーニー簡易図
── ユーザーの感情と疑問に沿って、接点と訴求のズレを可視化する流入〜CV〜有料化の全体フロー図
── ボトルネックを明示し、改善施策の起点とするLPの洗い出し一覧
── 各LPの構成・トンマナ・想定ペルソナを俯瞰し、構成の偏りを抽出するトップページの変遷
── 表現の変化と、いま伝えられていない点を視覚的に把握する
Point 2 ── 商品を並べず、習熟段階で貫く
3つのサービス(初心者パッケージ/オンライン英会話/Coaching)の対象ユーザーと提供価値を再定義しました。
社内では自明でも、外部からはサービス間の関係性が読み取れない。社内でも説明に揺れがある。この状態では、ユーザーは「自分にどれが適しているか」を判断できません。
再定義の前に、3つのサービスがどこに位置しているかを確認しています。レベル感・難易度と、サポートの手厚さ。この2軸に自社サービスを配置すると、3つが別々の商品ではなく、一本の連続した線の上に並んでいることが見えました。
商品名で並列に並べる構成は採りませんでした。それはサービス提供側の都合による並べ方です。かわりに、全サービスを貫通する最上位概念を明文化し、ユーザーの習熟段階を軸にポートフォリオを組み直しています。
「使える・伝わる・動かす」。このサービスが創業以来かかげてきた5つの素養を、3つの価値に分解しました。素養は能力の獲得を指しますが、それを仕事の現場で再現できる状態まで落とし込むところに提供価値がある。そう定義しています。
定義したあとは、そこから実際に言葉を起こし、成立するかを検証しています。検証の方法として、この定義でブランドを刷新したと仮定したプレスリリースを書きました。実在しない発表資料です。定義が正しいかは、定義を眺めていても分かりません。世の中に向けた文章として書き下ろしたときに成立するかどうかで判断できると考えました。
この定義は、サイト構成だけでなく、今後の施策の判断基準として機能させるため、独立したドキュメントとして納品しました。チーム内でコンセプトがブレた際の、原点として使えるように。
Point 3 ── 網羅をやめ、決め手を渡す
情報を網羅すれば伝わる、という前提を変えました。
スマートフォンでの閲覧時、主要な訴求に到達するまでのスクロール量が多く、集中力が切れる設計になっていました。情報は多いのに、判断の決め手となるメッセージが弱い。結果として、ユーザーは納得して次へ進めません。
Web設計の潮流も、この10年で往復しています。2010年頃までの役割分担型から、2015年以降の1ページ完結型へ。そして現在、再び目的別に整理された分担型へと戻りつつある。「全部入り1枚」から「選べる複数枚」へ。
網羅することをやめ、判断の決め手を渡す。情報量で応えるのではなく、ユーザーが選べる状態をつくる。そこへ方針を切り替えました。
方針は、既存のコピーを実際に書き換えて示しています。たとえば講師紹介であれば、「業界最高水準の一流のトレーナー」という機能の言い切りから、何が水準を支えているのかが分かる形へ。教える力とビジネス経験の両方で選考している、という中身を書く。同じ主張でも、決め手として働く形に変わります。
書き換え案は、判断できるよう複数案を並べて提示しました。
ワイヤーフレームの一部
Point 4 ── 貫くものは、人にする
伝え方を分けたうえで、逆に貫くものも決めています。
このサービスには、創業以来メッセージを発信し続けてきた社内の人物がいます。検索でもSNSでも、サービス名とその人が結びついた状態で認知されている。ただし一時期、露出の頻度を下げた判断がなされていました。
属人的なリスクとして扱うか、蓄積された資産として扱うか。ここが判断の分かれ目でした。
改めて確認したところ、頻度を下げた期間も、外部での認知は継続していました。社内の人物であり、継続的に運用できる。制作コストも抑えられる。リスクではなく資産と捉え直したうえで、登場する場面ごとにトーンを定義しています。
目的は「人で見せる」ことではなく、伝える軸を分かりやすくすること。あわせて、活用する素材の品質とトーンの統一を、次のフェーズの論点として引き継いでいます。
Point 5 ── AIの隣に立つ。対立させない
外部要因の筆頭は、AI英会話の普及でした。月額数千円で始められ、いつでも中断できて、間違えても気まずくない。「まず試す」の入口が、人と話すサービスの外側に移っていました。
この状況で採りうる立場は、大きく二つあります。AIにできないことを掲げて対立軸を立てるか、AIを前提として自らの位置を定義し直すか。
対立軸は採りませんでした。
AIによって英語学習が柔軟で反復可能になったことは、学習者にとって利益です。それを否定する主張は、事実に反しているうえに、学習者の実感とも合いません。
代わりに、人と話す場面に固有のものを定義しました。本物の人間と向き合うときに生まれる緊張感です。相手の時間を使っている、反応が返ってくる、取り繕えない。この緊張感が、集中力と即応力、そして信頼を築く力を引き出す。仕事の現場で必要になるのは、まさにその力です。
AIで反復し、人と話す場で仕上げる。両者は競合ではなく、学習の異なる段階を担っている。そう位置づけたうえで、「使える・伝わる・動かす」の定義に接続しました。
この整理は、サイトの文言に直接現れる部分ではありません。ただ、AIをどう扱うかは今後あらゆる訴求の前提になります。判断の基準として、価値定義のドキュメントに含めて納品しました。
Point 6 ── ひとつに統合せず、役割で分ける
当初は「LPで検証済みの要素をサイトへ展開する」プロセスを想定していました。検討を進めるなかで、この方針を変えています。
サイトはブランド理解と信頼形成を担う中長期の資産。LPは短期のCVR向上。目的も役割も異なります。統合すると一方に負荷が集中し、根本の構造整理に至らないまま行き詰まる。そう判断しました。
もうひとつの理由は、現状の構造が複雑化していたことです。施策の目的や訴求対象が混在し、社内外で「どこで何を伝えているのか」が見えづらい。この状態で一体化しても、整理しきれないまま持ち越すことになります。
役割を分離したうえで、トーン・構成・アクセシビリティの優先度を、それぞれ個別に定義しています。
方針を変更した理由は、比較表として資料化し、合意を得たうえで進めました。当初案の限界と、変更後の案が持つ価値。その両方を提示したうえで、判断していただいています。
構成と言葉をつくる
サイトトップ、LP、下層ページのワイヤーフレームを作成し、各セクションに担う役割と誘導したい行動を注記しました。実際に画面に載るコピーも、このなかで書いています。機能訴求に寄っていた既存の文言を、便益が伝わる言葉に書き換えました。
あわせて、レイアウト・タイポグラフィ・アクセシビリティ・CTA設計・レスポンシブ対応について、デザインチーム向けの要件を策定しています。要件は、判断の基準として共有したものです。
ビジュアルデザインは、クライアント社内のデザインチームが担当しています。
提案や設計案は、会議の前にビデオで共有しています。当日その場で説明するのではなく、事前に見ておいてもらう。ビデオなら倍速で見られるので、文章より短い時間で把握できます。会議は、説明ではなく議論に使いたいからです。
ワイヤーフレーム
デザインチーム向けの要件を策定
サイトの課題としてご相談を受けたものが、進行するなかで、事業のコミュニケーション設計の課題として立ち上がってきたプロジェクトでした。
運用期間の長いサービスほど、社内で自明とされている前提を、外部に向けて言語化する機会がありません。今回はその言語化から着手しています。
途中で方針を変更した場面もあります。当初想定していたアプローチでは、根本の構造整理に至らないまま行き詰まるリスクが高いと判断し、順序を組み替えました。判断の理由を含めて資料化し、合意を得たうえで進めています。
提案時にお伝えしたのは、目指しているのは「強く伝える」ことではなく「正しく伝わる」ことだ、という点でした。訴求を強化すれば短期的に数値は動きますが、価値の核が定義されていなければ、想起には至りません。名前を思い出してもらえなければ、次に選ばれることもない。
設計意図の伝達には、工数を割いています。ワイヤーフレームは構成を示すものであり、表現を規定するものではない。この前提を最初に共有しました。
結果として、こちらの想定を超えるアウトプットが返ってきた箇所も複数あります。
残したかったのは、サイトそのものよりも、今後の判断に使える軸のほうです。施策を検討する際に立ち返れる定義があれば、私が離れたあとも機能します。

