パナソニック エレクトリックワークス社 住宅サービスプラットフォーム
建てる・暮らす・更新する。家を「完成したモノ」ではなく、育つものとして設計し直す。
住宅設備は、導入から10年以上が経過すると、点検・交換に相応の費用が発生します。しかしこの費用は購入時の意思決定に織り込まれておらず、多くのユーザーは必要になってから情報を探し始めます。この「アフター10年」の課題に対し、設備の状態を可視化し、次の一手を提示し、専門家への相談へと接続するサービスを設計しました。事業構想から情報設計、UIデザイン、フロントエンド実装、公開前の検証までを担当しています。
Client
パナソニック エレクトリックワークス社
期間:
2025年7月 – 2026年3月(週2日稼働)担当:
ドメイン分析 / サービスコンセプトの立案 / カスタマージャーニー設計 / 情報設計 / UIデザイン / デザインシステム構築 / フロントエンド実装 / 検証マーケティング体制:
デザイン実制作・実装はクライアント社内チームが担当
※ 成果物の特性上、掲載する画像には一部マスク処理を施しています。
Point 1 ── 前提から、問い直す
新規事業の立ち上げに、構想の段階から参画しました。ご依頼の時点から、制作ではなく、事業の設計に継続して関わる形が想定されていました。
最初に取り組んだのは、事業ドメインそのものの構造化です。住宅のエネルギー制御システムが、社会のなかでどう位置づけられ、企業にとって何を意味し、ユーザーにどう受け取られているのか。技術の制約から、国のエネルギー政策、企業のデータ戦略までを一度並べ、この事業が立っている場所を確かめました。
そこで見えたのは、責任の空白でした。頭脳を入れた家に、10年後、誰が責任を持つのか。住宅・電力・IT・通信の四者にまたがる領域で、その境界線が引かれていない。
もうひとつ確認したのは、ユーザー側の実態です。10年後に大きな設備更新が発生することを理解したうえで導入している人は、実際にはほとんどいません。「家は一生もの」という前提、補助金とセット割の効果、見える化すれば節約できるという誤解。いくつもの認知バイアスが重なり、導入した瞬間から関心が薄れていく構造がありました。
仕組みそのものは変えられません。ただ、付き合い方は変えられる。ここを設計の起点に置いています。
Point 2 ── 完成品ではなく、育つものとして扱う
課題は費用の問題として現れますが、費用の話だけで解こうとすると、通知は売り込みになります。
参照したのは、まったく別の領域でした。スキンケアの世界では、この十数年で価値観が「守る・整える」から「育てる」へ移っています。予防美容という考え方が浸透し、肌は管理する対象ではなく、育てる対象になった。
同じ転換を、住宅に持ち込めないか。設備メンテナンスは、いまトラブル対応として認識されています。これを「育てる行為」として捉え直せば、関わり続ける理由が生まれます。
家は、頭脳と設備が連動しながら老い、学び続けるもの。完成したモノではなく、暮らしとともに成長する存在として扱う。ここまでを、事業コンセプトとして提案しました。
方向性としては共有されましたが、この構想がそのまま形になったわけではありません。検証フェーズで扱える範囲に絞り込むなかで、多くはスコープの外に置いています。
※ 構想段階の提案です。実装されたサービスの仕様ではありません。
Point 3 ── 売りたいものを、入口に置かない
この事業が最終的に求めるのは、設備の更新です。ただし、それをそのまま入口にすると届きません。
訴求を三階層に分けました。第一階層は、一般的なお金の相談。老後資金、教育費、家計の見直し。間口を広く、安心感を優先します。第二階層は、この会社ならではの「くらし全体」の相談。第三階層に、はじめて具体的な設備の相談が来ます。
導線の先も設計しています。FP相談から、リフォームの資金計画へ。そこからリフォームコンシェルジュの紹介、施工まで。入口で売り込まないぶん、出口までの距離を長く取りました。
Point 4 ── 構想を、実装できる形まで落とす
開発要件は、理想形から二度削り込みました。最初に描いた全体像から、現実的なMVPへ。さらに検証に必要な最小限へ。どこを削ればコンセプトが死ぬのか、どこは後回しにできるのか。その線引きを繰り返しています。
構想として描いたものの大半は、この過程で外れました。ただ、削る判断をするためには、削られる側の全体像が要ります。理想形がなければ、何を諦めたのかも分からないまま進むことになる。
診断ツールでは、計算ロジックそのものを定義しました。点検と交換が発生する年、その費用、グラフで示す30年のレンジ、注記の文言。費用の根拠には、経済産業省の調達価格等算定委員会や、住宅産業協議会のメンテナンススケジュールガイドといった公的データを当てています。
デザインシステムも整備しています。画面の一貫性を保つためであり、この先チームだけで運用できる状態にするためでもあります。
最終的にこのFigmaは、最終的に実装の仕様書として機能しました。文言のロジックやグラフの表記について、実装を進めるなかでやり取りを重ねています。ビジュアルのカンプではなく、判断の基準として使える状態を目指しました。
新規事業では、理想とする構想を描くことと、現時点で実装可能な範囲に収めることを、同時に進める必要があります。今回は、その両者を往復しながら要件を確定させました。
このプロジェクトの中心にあったのは、事業の意図をユーザーに届く言葉へ翻訳する作業でした。事業が求めるのは設備の更新です。しかしその意図をそのまま伝えれば、通知は売り込みになる。売り込みと受け取られた時点で、10年をかけて築くはずの関係は損なわれます。何を、どう伝えれば届くのか。事業とユーザーのあいだに立ち、その距離を設計し続けたことが、このプロジェクトを通して残ったものでした。

